【#17】美しい世界
靴業界には、若い職人が少ないと言われています。わたしが靴に携わりはじめた15年ほど前に一番活躍されていた職人さんたちは60代〜70代の男性で、その半数以上はもう今は引退されているのではないかと思います。
もちろん今でも活躍されている職人の方々もたくさんいらっしゃいますが、そのほとんどが70代〜80代となり、靴業界の職人に後継者が少ないのも事実です。
職人よりももっと安定した仕事を、と自分の子供たちに職人という仕事を継がせなかった方が多いという話も聞きます。だから、その方々の子ども世代である40後半〜60前半の職人が少ないのだと。
そんななか、先日メーカーに久しぶりに伺い出会ったのは、私と同じ39歳の職人さんでした。靴業界は、20代、30代の若い世代の職人さんが少しずつ増えているのだと聞きます。まだまだ少ないけれど、日本の(というよりは東京のですが)靴業界がこれからも続いていく、と思えるのは嬉しいことです。そして、職人になって10年強という彼がいるメーカーの未来は明るいな、と心から思いました。きっと彼が、上の世代の職人から受け継いできたことをもとに、下の世代の職人とともに、これから先の靴業界の未来をつくっていくのだろうから。
メーカーに行くたびに思う、前に進むために変わらなくてはいけないことと(若い世代の職人が増えることや時代に合わせて効率化することなど)、良さを残して変わらないで欲しいと思うこと(人の温かみを感じる靴づくりや関わる人たちの人情を大切にする業界だということ)。
わたしは、デザイナーとしてこの問題と魅力を伝えられる人になりたいと常々思ってきました。
靴業界に限らず、いろいろな業界が後継者問題などの同じ悩みを抱えていたり、人との関わりがうみだす同じような魅力を持っていたりするのだと思います。
その問題と魅力に向き合い、愛を持って接する。わたしにはそれしか出来ないのだけれど、自分の原点であるメーカーに行くたび、その気持ちを感じられるのは本当に幸せなことだなと感じています。
仲間として一緒にがんばれる横軸の人間関係だけでなく、尊敬し、想いを共有できる、その世界をつくってきてくれた先輩方のことも大切にしていきたい。その縦軸を大切にすることが、きっと未来へと繋がっていくから。
みんなが自分の大好きな世界を大切にして、他の人の大好きな世界も尊重できる、そんな世の中になると良いですよね。綺麗事じゃ済まないけれど、ただただ、この世の中が美しい世界であって欲しいなと思っています。
わたしのものづくりの根本にある想いは、そんな美しい世界への憧れなのかもしれません。